第3回 白玉か (第六段 芥川)
昔 ある一人の男の人がおりました
とても結婚できないような方へ
何年も求婚し続けておりましたが
中々かなわず とうとう盗み出して
たいそう暗い時分に逃げてきました。
芥川という河辺を通り過ぎる頃 背に負った女の方は 草の葉にたまっていた露を見て「あれは何ですか」と男に尋ねました。
行き先は遠く 夜もすっかり更けてしまってその上雷までたいへんひどくなり雨も降ったので 鬼が住んでいるとも知らず
荒れ果てた倉に女の方を奥に押し入れ 男は弓ややなぐいを背負い武装して戸口に立ちました。
「早く雨もやみ 夜も明けて欲しいなあ」と思いながら腰を下ろしていたところが その間に鬼は女の方をたちまちに一口で
食べてしまったのです「あれーっ」と女の方は叫んだのですが雷の鳴る音の騒がしさのために男は女の方の悲鳴を聞きつける
ことができませんでした。次第に夜が明け明るくなってゆき 見ると連れてきた女の方がおりません 悔しがって泣いたけれども
何の役にも立ちません
白玉かなにぞと人の問いし時
露と答えて消えなましものを
真珠かしら何ですかとあの人が尋ねたときあれはつゆだよと答えて 私は露のように消えてしまっていればよかった
この話は二条の后高子様がいとこの明子様の女御でおられる時に そのお側に宮仕えするような形で住んでおいでになられた時 男が盗んで背負って逃げたときのこと。
二条の后の次兄の堀川大臣基経と長兄の国経の大納言がまだ若く官職も低い頃 宮中に参内なさるときに たいそうひどく
泣く人があるのを聞きつけて 遠くへ行くのをとどめ 后を取り返してしまわれたのでした。それをこのように 鬼がとった
といったのでございます。
まだ后がたいそう若くて 入内もなさらず臣下藤原の娘でいらっしゃった時のこととかと言うことでございます。
干菓子 白玉か
「白玉か」をテーマに創られた干菓子です。
露と芥川に見立てた干菓子を盆に盛ってみました。
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